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5月病で憂鬱なあなたに送る憂鬱を吹き飛ばさない小説5選

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憂鬱を楽しむ小説たち

五月といえば五月病。GWが終わりなんとなとく会社や学校に嫌気がさしてくるこの時期は多くの人が憂鬱ななはず。普通であれば、「五月病を吹き飛ばす◯◯」という記事に多くの人が飛びつくところでしょうが、私はあえて憂鬱な気分を楽しむ方法もありではないかとおもいます。どうせ本読んだり映画見たり友達と遊んだりするだけで嫌な気分が全部解消されるわけではないのですから。憂鬱を吹き飛ばすのではなく、時には憂鬱を楽しみましょう。ということで憂鬱な気分をさらに憂鬱にさせてくれる小説をご紹介します。

 

 

G.W.ゼーバルト『 土星の輪』

土星の環―イギリス行脚 (ゼーバルト・コレクション)

土星の環―イギリス行脚 (ゼーバルト・コレクション)

 

 

ときどき思うのですよ、この世にとうとう慣れることができなかったと、そして人生は大きな、きりのない、わけの分からない失敗でしかない、と。 It seems to me sometimes that we never got used to being on this earth and life is just one great, ongoing, incomprehensible blunder.

 

イギリス最東端のイースト・アングリアをひたすた孤独に歩きつづける「私」。彼の目にうつるのは打ち捨てられた屋敷や廃墟。脱線と反復が繰り返される彼の思考はみなが忘れ去った歴史に向かう。

正直、ゼーバルトは今世紀の中でももっとも素晴らしい作品を残している作家だと思います。『アウステルリッツ』という作品が代表作とされることが多いですが、『土星の輪』も優れた作品です。ゼーバルトの作品に通底するペシミズムはなぜか読むものの心を憂鬱にさせるだけでなく癒やすという不思議な効果がある気がします。

 

自分の名を作品に冠したからといって、人の記憶にとどまる保障はない。なんとなれば、最良のものたちこそ、跡もとどめず消えてしまったのかもしれないのだから。忘却のケシの花はいたるところで芽を吹き、そしてある日、夏の日の雪のようにふいに悲惨が襲いかかったとき、われわれが願うのはただ忘れ去られることのみである。

 

owlman.hateblo.jp

 

トーマス・ベルンハルト『消去』

消去 上

消去 上

 

 

私は妹たちをずっと愛してきたが、だからといって、彼女たちを憎み続けてこなかったわけではない。成人してからはもちろん愛情より憎しみがまさった。いまは、もう憎しみしか残っていないのではないかと思う。

 

葬儀のために訪れる故郷とそこに住む家族についてのひたすらな罵倒が何度も反復されて浴びせられるという恐ろしい小説。罵倒もここまでいくと芸術。反復と間接話法で構成される独特の文体が彼の特徴です。

 

医者は考えられるかぎりもっとも悲惨であると同時にもっとも鼻もちならない話相手である。というのも口を開けば、あともう少しですからがんばって生きてくださいと言うからだが、彼らは、それがどんなにひどく、みじめで、くだらない倒錯した人生であり、長引かせる価値などない自分と自分の病気だけが中心の人生だと分かったうえで生きろ言っているのだろうか。

 

私たちは人生の眠れぬ夜夜に感謝しなければならないんだよ、ガンベッティ君、と私は彼に言った。なぜなら眠れぬ夜はどんな場合でも私たちの「哲学的前進」を促してくれるからだ。

 

この小説は上下巻と長いですが、読み切る価値は十分にあると思います。眠れぬ夜は『消去』を読むといいと思うよ、ガンベッティ君。

 

owlman.hateblo.jp

 

フェルナンド・ペソア 『不穏の書、断章』

新編 不穏の書、断章 (平凡社ライブラリー)

新編 不穏の書、断章 (平凡社ライブラリー)

 

孤独は私を絶望に追いやるが、他人といるのは気が重い。

 

ポルトガルが産だ天才ちょびひげ詩人、フェルナンド・ペソア。これは小説というよりも詩集ですが、一見の価値あり。おじさんの意識はすべてが断片的なのです。

 

私の願望の本質を要約すれば、これに尽きる── 一生を寝て過ごす。

 

上司に怒られたときに言ってみましょう。

 

owlman.hateblo.jp

 

ブレット・イーストン・エリス『アメリカン・サイコ』

アメリカン・サイコ〈上〉 (角川文庫)

アメリカン・サイコ〈上〉 (角川文庫)

 

血と肉の臭いがアパートに充満し、かえって鼻につかなくなる。しばらくして、私の陰惨な死の楽しみが白けて、こんなことをしていても慰めがつかないと泣けてきて、おいおいと声を挙げて泣き、「愛されたいだけなんだ」と言って、この地球や、私が教えられたあらゆること―原則、区別、選択、道徳、妥協、知識、統合、祈り―に罵りを発し、こういう何もかもが、結局は無目的な、まちがったものだと思える。だから要するにどうだと言えば、死ぬか適応するかしかない。

 

アメリカの金融街で「成功者」として暮らす主人公。ブランド物の服を身にまとい、高級レストランで食事するのが当たり前の羨ましい生活を送りながら、おそろしい一面をもった私。これほど憂鬱になる小説もないのではないかと思うほど。でもそれゆえに彼の「愛されたいだけなんだ」という彼の言葉が重い。

 

はっきりと何だかわかる感情は、私の中になかった。貪りたい欲望と、あとはたぶん、あらゆるものへの嫌悪感だけだった。私は人間としての特徴をすべて備えていた―肉、血、皮膚、体毛、―しかし、脱人間化が強烈に進行していて、深いところまで達したので、人に共感する通常の能力が根絶されていた。徐徐に意図的に葬っていったのだ。

 

d.hatena.ne.jp

 

ミシェル・ウェルベック 『素粒子』

素粒子 (ちくま文庫)

素粒子 (ちくま文庫)

 

 

人生がこれほど限られたもので、可能性なんかたちまち消えてしまうだなんて、十七歳のころには想像もつかなかった。

 

あらすじは忘れました(笑)セックスの話ばかりだった気がします。ウェルベックは結構辛辣なことを書きながらもそこに同時にひそむ孤独感やコンプレックスが面白い。毎作品政治、宗教的に話題になることが多く、 いつか殺されるんじゃないだろうかと心配になります。

 

とはいえ最後には、人生は人の心を打ち砕かずにはいない。一生を通してどんな勇気や冷静さやユーモアを養ってきたとしても、必ず最後には心を打ち砕かれる。そうなればもう笑うこともなくなります。要するにあとに残るのは孤独、寒さ、沈黙のみ。要するにあとは死ぬしかない。

 

www.playnote.net

憂鬱を楽しもう!

という豪華なラインナップでしたがいかかでしょうか。ここにあげたのは各作家の代表作と言えるほどの傑作ばかり。ぜひ手にとってお読みいただければとおもいます。ほんとはカフカとかも入れたかったけど。

将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。将来にむかってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。(カフカ、(婚約者へのラブレター))

 

では。